『カザアナ』森絵都著 数ページで「面白い」と確信した一冊

 最初の数ページを読んだ時点で、確信することがまれにある。この本は、最後まで、すみずみまで、面白いに違いないと。その確信に震えながら、次のページをめくるのだ。

 わりと分厚い一冊である。なのに手から離すのがもったいなくて、外出先へと持ち歩いた。ちょっとでも時間ができると、電車の中でも、バイト先の休憩室でもこの本を開いた。ぐんぐんと読み進める。登場人物たちと会えるのがうれしかった。そしてどこから読んでも惹き込まれた。こんなの久しぶりだ。本好きでほんとうによかった。

 この物語の主人公は一組の親子だ。快活な少女・里宇(りう)と、浮き沈みが激しい少年・早久(さく)、二人の母親でフリーの記者の由阿(ゆあ)である。父親は早くに亡くなり、そのことが彼らに何らかの影を落としている。

 ある日、里宇が不思議な女性に声をかけられる。ひそかに胸元に下げていた石のお守りから目線を外さない彼女の名は香瑠(かおる)。石の気持ちがわかる「石読」という能力者だった。「空読」のテルと「虫読」の鈴虫と3人で造園業を営んでいる。決して植物が枯れない庭。石と虫と植物とが幸福な連鎖を営む庭。

 里宇たち一家と、香瑠たち「カザアナ」の面々が、いろいろと起こる様々なトラブルを見事に解決していくさまが、この本では描かれていく。ひきこもり気味の早久の元気を取り戻す。早久の学校の相撲大会を、大人たちの陰謀から守る。やがて、一話ごとに、彼らがかじりつく事件のスケールが大きくなっていく。最終的には、アメリカ大統領と渡り合うところまで行くのだ。

 描かれる時代背景が興味深い。今から数十年後の日本。人々の行動はシステムによって管理され、誰もが監視の目の下で生きている。電子媒体につづった言葉はすべて管理者に読まれている。だから、ほんとうに秘密の事柄は、紙に書く。ドローンの目をかいくぐるために、鳥を利用する。そう、「カザアナ」にもうひとり「鳥読」も登場するのだ。

 登場人物たちが、あっけらかんとしていて、痛快で、愛おしい。決してたやすい世界ではないのに、それはそれとして人生を謳歌している。ちょっと本から離れていると、彼ら彼女らに会いたくなる。これを書きながら、すでにそうである。今日は休日。私は今から、この本を読み返しちゃうんだろうな、と思っている。

(朝日新聞出版 1700円+税)=小川志津子

2019年7月26日

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