『始まりの家』蓮見恭子著 「女」は物語でできている

 5人きょうだいとその母親、そしてとある女優の半生についての物語である。

 そもそも、登場人物たちがそれぞれに抱える現実がややこしい。末っ子の「葉月」は、子供は欲しくない、という約束に合意して、夫と結婚したはずだった。しかし代わり映えのしない毎日と、ずっと抱えてきたコンプレックスに押しつぶされて、子供さえできれば自分の人生は一変するのにと思いつめている。

 姉の「弥生」は有名女優「朝倉ミチ」の専属ヘアメイク。ミチの気質や事務所の仕事ぶりに辟易としながらも、ミチの支配下から外に出れば、もはや自分は用済みなのだと葛藤している。

 きょうだいの母・益美は、ある程度の修羅場を堂々とくぐり抜け、葉月の出生の秘密を頑として口にせずに生きてきた。けれど葉月から、ある懇願を受けて、その生き様に揺らぎを見せ始める。

 女、という生きものは、物語と共に生きている。「結婚」とか「出産」とか「仕事」とかを、女たちがどう選び取っていくか。ありとあらゆる映画や小説が、それらをテーマにして生まれ、賛否を獲得して、売れたり、そうでなかったりする。それはなぜか。簡単である。誰ひとりとして、誰かと同じ人生を生きていないからである。彼女たちが選択する、結婚や出産や仕事は、彼女たち自身によるものであって、モデルケースというものが存在しないからだ。物語は、女の数だけある。

 後半へと読み進むと、きょうだいたちがそれぞれの事情を明かしていく。そしてそれらが、次第に絡み合い始める。末っ子がひとりで抱えていた悩みが、家族全員の心を揺らしていく。

 最後に登場するのは「朝倉ミチ」。彼女はその家族の歴史に大きく関わっており、そしてそのことをずっと引きずりながら生きてきた。そんなミチが、縛られていたものと決別し、歩き出す。どんな人生も、今日から始まるのである。

(講談社 1550円+税)=小川志津子

2018年10月12日

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