『ROMA/ローマ』、大傑作だがネットのみ 東京国際映画祭では上映へ

▼大スクリーンでの上映を想定して作られた傑作映画が、映画館ではなくネット配信でしか公開されないそうだ。

▼9月、ベネチア国際映画祭で最高賞「金獅子賞」に輝いた映画『ROMA/ローマ』のことである。『ゼロ・グラビティ』で知られるアルフォンソ・キュアロン監督(メキシコ)の半自伝的作品だ。筆者の同僚記者はベネチアで鑑賞し、「静かで、心揺さぶられる映画。これを見れただけでもベネチアに来た甲斐があった」と言った。キュアロン監督はデジタルでもなく35mmフィルムでもなく、65mmフィルムで撮影した。

▼つまり大スクリーン向き仕様で撮ったのだが、動画配信サービス大手のNETFLIXに配給を任せることを決定。NETFLIXは極力、映画を劇場公開しない。5月のカンヌ国際映画祭は『ROMA』をコンペティション部門で世界初上映したかったのだが、フランス国内の映画館で公開される作品であることがコンペ出品条件。その点で昨年来もめているカンヌとNETFLIXは妥協点を見いだせず、成就せず。『ROMA』は、配信系映画も歓迎のベネチアへと回った。

▼この『ROMA』が、東京国際映画祭(略称TIFF。10月25日~11月3日)の特別招待作品としてTOHOシネマズ六本木ヒルズで上映される。とてもありがたい。上映決定に至った経緯を、TIFFの矢田部吉彦・作品選定ディレクターが、『全国コミュニティシネマ会議2018 in 山形』(9月28、29日)の中で明かした。それによると…。

▼動画配信サービスには作品が膨大にあり、NETFLIXとしては『ROMA』を目立たせたい。他作品との差別化を図ろうと、「TIFFで上映しませんか」と打診が来た。試写を見た矢田部氏いわく「大傑作。圧巻のアート映画。これスクリーンで見せないでどーすんのよっていう映画」。そこで矢田部氏はNETFLIXの担当者に「これ(劇場)公開してもwin-winで(配信に)何のダメージもないから公開しましょうよ」と提案したが、「一切そのつもりはありません」と返ってきたという。

▼とにもかくにもTIFFでの上映を決めると、NETFLIXから「シルバースクリーンだめ、(音響は)ドルビーアトモス(が導入されているシアター)じゃなきゃだめ、上映は全回チェックします」と指示があったそうだ。そんなにも上映の仕方にしっかりとこだわる作品を、ネット配信でしか公開しないとは、なんともったいないことか。

▼ただ、映画産業の勢力図は変わりつつある。潤沢な資金を持つ配信サービス企業は重要なプレイヤーだ。映画館での興行を考えると大手映画会社が二の足を踏むような、個性の強い企画や監督たちを、配信系企業は積極的にすくい上げ、あまり口出しせずに撮らせる。あるいは完成後に配給権を買い付ける。おかげで多様な映画が生まれるという面がある。

▼米メディアIndie Wireに、キュアロン監督とエグゼクティブ・プロデューサーのデヴィッド・リンド氏が語ったところでは、『ROMA』はもちろん映画館で見てほしいが、せりふはスペイン語で、映像は白黒、無名の俳優しか出演していない。「外国映画」に対する各国の現状を考えるに、従来型の劇場公開でうまくいくか心配になったという。そこで「われわれは、映画を劇場で見られる最良の方法を見いだすだけではなく、可能な限り多くの観客に映画が届くよう考える必要があった」。結果、NETFLIXと組んだという。

▼「有力映画祭で上映して認知度上げる」→「ネット配信」→「相当な配信期間を経てもスクリーンで見たい需要がある作品が劇場公開」という順序をたどる映画が、幾つも生まれていくのかもしれない。

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第116回=共同通信記者)

2018年10月11日

エンタメ記者コラム

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