『君に言えなかったこと』こざわたまこ著 「想像力」に阻まれながら

 人と人をつなぐものは、「言えなかったこと」の集積である。言えた言葉や、できた事柄で結ばれているように見えて、実は「言えなかったこと」こそが、人と人を結び、縛る。

 本書に掲載されている短編作品群に描かれる風景の多くは、青春時代のそれである。決定的な決裂を遂げた幼馴染の結婚披露宴で、スピーチを頼まれた主人公の回想と真意。どんなに厄介な頼まれ事も全部引き受け、試練に耐えて、いつも自ら不幸であろうとしている(ように見えた)恋人との別れと再会。転校続きで同級生たちに馴染もうとしない主人公に「親友ごっこ」を持ちかける少女の奮闘。「言いたいこと」がとっさに思いつくほど器用ではなく、嫌な記憶を水に流すほど割り切れてもいない人たちが、喉の奥に引っかかっている言葉をそれぞれに述懐する。

 しかし読み進めるうちに、様子が変わってくる。『君はアイドル』は地下アイドルにハマる中年主婦と、そのアイドルグループの一員にそっくりな青年が、互いに嘘だと知りながら交わす嘘の物語だ。『君の正しさ』では深夜のコンビニエンスストアを舞台に、一般的に「正しい」とされる物事と、あまりうまく折り合いをつけられずにいる登場人物たちの葛藤が描かれる。極めつけは最後に掲載された表題作である。母の愛を受けられなかった(と思い込んでいる)主人公が、母の再婚相手である男の言葉で、それはただの勘違いであったことを、じんわりと知る。

 人間という生き物が身につけてしまった、厄介な能力のひとつが「想像力」である。今、相手はこんな気持ちなのではないか。たった今、食らったばかりの言葉は、こんな気持ちのもとに発せられたのではないか。証拠など何もありはしないのに、人は勝手に想像し、思い込み、それをまるで神様からのどうしようもない司令みたいに、眉間にシワを寄せて抱え込もうとする。当然、生きづらい。自分の勝手な想像力が、自分の一挙手一投足を監視している。自分の勝手な想像力が、自分をがんじがらめにする。

 けれど本書の登場人物たちは、ラストにはほんの少し自由になる。「想像力」に阻まれて(いると思い込んで)踏み込めなかった相手に対する、1ミリの勇気。そのささやかさが極めて程よく響いてくる。明日から、人生、変わるかもしれない。変わらないかもしれない。だから人生は面白いのだ。

(祥伝社 1400円+税)=小川志津子

2018年9月14日

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