『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』幡野広志著 いつか伝えたいことを今伝える一冊

 著者は、35歳のカメラマンである。息子が産まれて、彼は息子のために、父親として伝えておきたいことを文字にし始めた。彼のTwitterはめきめきとフォロワー数を伸ばし、やがていくつかの身の上相談が寄せられるようになった。それらに対して、時に優しく、時に厳しく、率直に打ち返される彼の返答。「晴れた日の空は青い」「夏は暑く、冬は寒い」くらいのシンプルさで。

 彼は「ガン患者」である。「多発性骨髄腫」。今すぐ日常のすべてがひっくり返るわけでも、かといって楽観視が許されるわけでもないくらいの余命を、彼は宣告されている。

 いつか彼の息子が開くであろう本書で、まず彼は「優しさ」を解剖してみせる。病気を公表したとたんに押し寄せた、「優しさ」の顔をした「虐待」のこと。優しさとは一方的に注がれるものではなく、互いに連鎖していくものだということ。優しい叱責とはどういうものか。子育てにおける「優しさ」とは何か。

 著者の若き日も描かれる。彼は周りに合わせるのではなく、自分の物差しを正しいとして、大人になれた人である。群れるな。孤独に臆するな。もっと大切なものが世界にはある。父は息子にそう語りかける。

 これらの言葉が必要になるとき、僕は君のそばにいないかもしれない。本書の根底には、それが前提に置かれている。ありとあらゆるシチュエーションを著者が想定して、それに対するアンサーがつづられる。それでもおそらく息子は「想定外」に出くわすだろう。何かが起きたそのとき、タイムリーに、泣きじゃくる我が子を抱きしめたいと、彼はどれほど強く念じているだろう。

 そして、著者が想定するいくつものシチュエーションが、今を生きる大人たちにも響くものであるあたりがニクい。嫌な人からの離れ方。本当に行きたい道の選び方。就くべき仕事との向き合い方まで。その根底にあるのは、いつも「自信」だ。彼は、他の誰でもない自分の「自信」の育て方を知っている。

 お金と人生のバランスについての記述も光る。自分は若い頃、時間はどこまでも続くと思って、人生に何ももたらさないアルバイトに時間を注いでしまった。動けるときに、やりたいことを存分にやればよかった。——多くの大人が、思い当たるふしがあるように思う。自分が進みたい道を真に知るのは、何でもできる少年期でも思春期でもなく、無理のきかない大人になってからである。

 最終章は、「生と死」についてだ。かつて魂を注いだ狩猟についての、生々しい体験も語られる。そして終盤、それまで「僕は」だった文章の主語が「お父さんは」に変わる。そして語られる、愛おしすぎる言葉たち。それが、すべてだ。

(PHP研究所 1400円+税)=小川志津子

2018年9月14日

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