「サッカーコラム」J1鹿島、アジアの頂点へ王手

ACL決勝第1戦を2―0で完勝



 ついこの間まで暑さを嘆いていたことがまるでうそのように空気に冷たさが増してきた。季節の移ろいに合わせるように、Jリーグも大詰めを迎えている。そして、11月3日にクラブチームのアジア最強を決めるアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)決勝第1戦が行われ、J1鹿島とイランのペルセポリスが激突した。

 テレビを始めとするメディアでの露出が少ないことも関係したのだろう。鹿島の本拠「カシマスタジアム」は日本代表のような注目を浴びることはなかった。しかし、日本のサッカー界という視点で見れば、ACLの決勝を制するか否かは、代表チームがアジアカップでタイトルを獲得するかどうかに匹敵する価値を持っているといえる。

 ACLで優勝を手にすれば、12月にアラブ首長国連邦(UAE)で開催されるクラブワールドカップ(W杯)の出場権を得られる。今年は北中米カリブ海代表のグアダラハラ(メキシコ)と当たる1回戦を突破すれば、世界的強豪レアル・マドリード(スペイン)と対戦できる。鹿島が鮮烈な印象を与えた2016年以来の再戦を果たせば、クラブの名前は世界中に人々に再認識され、記憶に定着するだろう。しかも、今回のレアルはあまり調子が良くない。2年前のようなレベルの試合を展開すれば、勝機は十分にある。

 国際試合、中でもタイトルが掛かった試合は、Jリーグの優勝争いとは質も内容も全く別の物になることが珍しくない。リーチの長さもフィジカルも、日本人にはないものがあるからだ。ペルセポリスが展開したサッカーに対して鹿島のFW鈴木優磨が「どういうサッカーといわれたら表現できないくらい不思議なサッカー」と語っていたように、鹿島の選手は特異なスタイルに戸惑ったはずだ。

 シュートを打つことよりも、パスをつなぐことにこだわれ―。そう教えられて育ってきた日本人にすれば、パスをつなぐことに重きを置かないペルセポリスのサッカーは、異質だった。昨シーズンのイラン・プロリーグ得点王でイラン代表のアリプールと、ナイジェリア人のメンシャで構成する2トップを目がけてシンプルにロングボールを入れてくる。ペルセポリスの攻撃は、中盤での組み立ての時間、つまり鹿島守備陣からすれば身構える時間がないために、いつ襲いかかってくるか分からない怖さがあった。

 事実、最初の決定機はペルセポリスのシンプルな仕掛けから生まれた。開始4分、右サイドを抜けたネマティがダイレクトでゴール前にセンタリング。ゴール中央でニアに入ったメンシャに山本脩斗と鄭昇☆(火ヘンに玄)(チョン・スンヒョン)がつり出され、結果として2人ともヘディングを「かぶる」形になった。ファーポストで待ち受けていたのはフリーのアリプール。余裕を持った胸トラップからの右足ハーフボレーだった。

 スタジアムが凍りついた次の瞬間、思わず「すごい」とうなってしまう、そんなスーパープレーが生まれた。ゴール前で一度は体勢を崩した鄭昇☆(火ヘンに玄)が見事なリカバリーでシュートコースへ。アリプールの強烈なシュートを、顔面で防いだのだ。

 クリアボールがあまりにも見事に弾き出されたので、ペルセポリスの選手たちにはハンドに見えたらしい。激しい抗議が行われた。しかし、スタジアムに映し出される映像では明らかな顔面ブロックだ。「目と鼻の横ぐらい」。試合後に鄭昇☆(火ヘンに玄)が当たった場所をさすりながら話した。そして、この試合の勝負を分けたスーパークリアについては「後ろに流れてしまったので、その後の対応。体を投げ出して止めようという気持ちがあったから止められた」と満足そうに語った。

 ペルセポリスに先にアウェーゴールを許していたら、その後の試合展開は違ったものになっていただろう。この日の鹿島は「運」も含めて理想的な試合運びを見せた。それは、ピッチの状態も含めてだ。ハーフタイム、すごい水をまくのだなと思いながら、ピッチをぼんやりと見ていた。鹿島の先制点は、その滑りやすくなった芝生の上をチップしてゴール左隅に飛び込んだグラウンダーのシュートだった。

 後半13分、右サイドの西大伍から横パスを受けたレオ・シルバが前方でポストに入った土井聖真にパスを送る。リターンを受けたレオ・シルバはそのままカットインしてペナルティーエリアのライン上から左足シュートを放った。守るのはワールドカップ(W杯)ロシア大会でロナルド(ポルトガル)のPKを止めた名GKベイランバンド。アジアでも最高レベルのGKを破る一発で、鹿島はさらに勢いを増した。

 後半25分のセルジーニョの追加点は、アジアの頂点を限りなく引き寄せるに値するゴールだろう。決して会心とはいえない、左足アウトサイドの当たり損ないのようなシュート。これが逆にベイランバンドのタイミングを狂わせた。セルジーニョはこれでACL5戦連続のゴール。鹿島の歴史に名を連ねてるブラジル人に比べれば決してうまいとは思えないのだが、シュートに限っては間違いなくうまい。

 アウェーゴールを許さなかったことで、第2戦は完全な2―0の状態から試合を開始できる。もし鹿島がこのアドバンテージを引っ繰り返されたら、「日本サッカーはロシアW杯で何を学んだのか」と世界中にあざ笑われるだろう。そして「2点差が一番危ない」という日本の都市伝説が、ますます勢いづく。それだけは避けたい。

 決戦は11月10日だ―。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

2018年11月8日

サッカーコラム

サッカージャーナリスト・岩崎龍一氏による詳細な分析です。

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