「サッカーコラム」「取らせたい人」が勝ち取った栄冠

☆(曹の曲が由)監督率いるJ1湘南がルヴァン杯優勝



 「この人には一度はタイトルを取らせてやりたい」

 選手、監督を問わず、誇らしげに優勝カップを掲げる姿を見てみたいと思わせる人がいる。そして、その対象はほぼ100%同じタイプ。厳しい環境におかれても地道に努力を続けている人だ。普段は意見を戦わせることが多いサッカー好きの仲間ともこのことについてだけは不思議に一致する。日本人特有の「判官びいき」ではないが、ビッグクラブにはそんな思いを抱かせる監督や選手はあまりいない。やはり、予算規模の小さなクラブに集中する。

 J1湘南を率いて7シーズン目。まだ、トップディビジョンでのタイトルがない☆(曹の曲が由)貴裁監督は、そう思わせる人物の一人だった。公式会見の場でも自分のことを「オレ」と表現するなど、その人柄は飾り気がないだけでなく、誰に対しても裏表がない。そんな愛すべき指揮官が国内サッカー年間三大タイトルの一つ、Jリーグ・YBCルヴァン・カップ決勝でJ1横浜を1―0で下し、ようやく栄冠を手にしたのを目にできたのはうれしかった。

 湘南での7シーズンで日本代表にも選ばれる選手を数多く育てた。しかし、永木亮太(J1鹿島)や遠藤航(シントトロイデン=ベルギー=)を始めとする手塩にかけた選手たちを泣く泣く他クラブに送り出さなければいけなかった。それは経済的弱小クラブの宿命といえば宿命なのだが、選手を引き抜かれることでせっかく作り上げたチームを一から構築し直さなければならなくなる。だが、☆(曹の曲が由)監督はへこたれない。結果、就任期間で3度のJ1昇格を成し遂げた。そして、球際での強さと縦への速さを基盤に、―☆(曹の曲が由)監督が本質という―選手が生き生きとプレーし明るく躍動する「湘南スタイル」を築き上げてみせた。

 勝利を告げるホイッスルが鳴った瞬間、スタッフに抱きつかれてよろけた☆(曹の曲が由)監督が地面に倒れ込む。スタンドからは表情まではうかがい知れなかったが、かなりの間突っ伏したままだった。そのことを会見で聞かれると「ぎりぎりのところでやってきて選手が報われて良かった。(会長の)真壁(潔)さん、(社長の)水谷(尚人)さん、坂本紘司(取締役)も含めて、チャンピオンチームの一員になれてよかったと、そういうものに思いをはせていました」と語り、その後「寝ていても誰も来なかったので起きないと思いました」と笑いを誘った。

 しかしながら、タイトルにたどり着くまでの道のりは周囲が思うほど簡単なものではなかったのだろう。これまでの苦労を「何度も折れそうになったではなく、実際に折れているんです」と隠すことなく、かみしめるように語ってくれた。

 傑出した才能の「個」で構成されている日本代表の「森保ジャパン」を基準にすると、日本代表に入る可能性のある選手は湘南には現時点で一人もいないだろう。ただ、チームとしての規律順守と意思統一、90分間を走り抜き戦い抜くという点で、この日の湘南は日本代表にも劣らぬ最高レベルのパフォーマンスを見せた。

 中でも、☆(曹の曲が由)監督が最高の評価を下したGK秋元陽太と無失点に抑えた3バックの山根視来、坂圭祐、大野和成。加えて、両翼の岡本拓也と杉岡大暉が守備時に加勢することでできる5バックは、見事にラインを上下動させて、横浜Mにスペースを与えなかった。そして、シュートを打たれても、コースには必ず「緑の壁」が立ちふさがっていた。

 粘り強く堅固な守備がチームの基盤ならば、一撃で横浜Mを沈めた攻撃も鮮やかだった。前半36分、湘南が右サイドでボールをつないでいる間にゴール中央にポジションを取っていたのは左アウトサイドの杉岡だった。山根の中央へのパスは相手に当たってこぼれたが、それにいち早く反応。横浜MのDFが寄せてこないと見るや、迷うことなく左足を振りぬいた。放たれたシュートは目にもとまらぬ速さでGK飯倉大樹の手を弾き、25メートル先のゴールに突き刺さった。同時に杉岡の左側にあるスペースを駆け上がり、相手DFの注意をひきつけたベテラン梅崎司による“動きのアシスト”も見事だった。

 クラブとしては1994年に天皇杯を制して以来、25年ぶりのタイトルなのだという。栄冠はチーム力を前面に押し出して取ったものだ。湘南スタイルで築き上げられたチームが、来季も同じメンバーで戦えることを願っている。優勝で手にした賞金1億5000万円は、その意味でクラブにとっては文字通りの大きな財産だろう。

 帰り際、ほほ笑ましい場面に遭遇した。獲得したJリーグカップとルヴァン・カップ、二つの銀色のカップをケースにも入れず駐車場に持ち運ぶ男性に出くわした。真壁会長だった。社長時代を含むとこの20年間、給料をもらうことなくクラブ運営に尽くしてきた情熱の人。湘南の名物会長のなんともうれしげな表情を目の当たりにして、もう一人タイトルをあげたい人がここにいたことを改めて思い出した。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

2018年11月9日

サッカーコラム

サッカージャーナリスト・岩崎龍一氏による詳細な分析です。

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