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村田沙耶香、“残酷な現実”との対峙 芥川賞後「コンビニバイト」卒業もブレぬ思い

 「タイトルで想像するよりは、グロテスクなシーンや重いシーンもあって、もしかしたら読んでいて苦しい小説かもしれないですけど、私自身はこの小説を書いて、人間、“地球星人”を怖さもあれどかわいらしくてユーモラスだなという気持ちになれたので、自由に読んでほしいです」。こう語るのは、一昨年に『コンビニ人間』で芥川賞を受賞した作家の村田沙耶香氏。受賞後初となる小説『地球星人』(新潮社)をこのほど出版した村田氏に、同書に込めた思い、芥川賞後の自分自身などを聞いた。

【写真】著書を手に笑顔を浮かべる村田沙耶香氏

■“少女”と“性の搾取”表現への葛藤 キャッチーなタイトルに込めた視点とは

 物語は、主人公の奈月が幼少期の頃から始まる。毎年、お盆の頃になると父のふるさとである長野県・秋級(あきしな)を訪れるが、奈月は“秘密の恋人関係”を結んでいるいとこ・由宇との年に1回だけの再会を楽しみにしている。前半部では、2人の関係を中心に、それぞれの家庭事情、奈月が受けた心の傷に焦点が当てられている。“少女の性”が大きなテーマのひとつになっている。「少女が性的にひどい被害を受けてしまうシーンがあって、それは書いていて苦しかったですし、悩んだ部分もありました。少女が性的に大人に搾取されるっていうのは、今までもふわっとした形で書いてきたと思うんですけど、今書きたいと思って書きました。自分自身がやっぱり苦しかったんだと思います」。書いた後にも悩み続けているという。

 「幼少期や思春期、性愛的につらかったという気持ちはすごく覚えていて、いつか絶対に何らかの形で書きたい、ただ現実はもっと残酷だから、生ぬるい書き方じゃない書き方をしたいと思っていました。でも、書き終えた後は現実に起きているもっと残酷な出来事に筆が追いついていないなと感じました。これくらい残酷なんだということはもちろん表現したかったのですが、一方で心に傷をもった人とか、そういう方にとってフラッシュバックを起こしてしまうような作品になってしまったんではないかという後悔もあって…。女性にとって苦しい小説になってしまったのではないかという葛藤はあります。それでもこれほど苦しいんだという感情を書かないといられないような気持ちでした」。

 2人を取り巻く家庭にはそれぞれ閉塞感がある。「孤独な子どもっていうのはずっと書いてきているような気がしますね。奈月は周囲にわかりやすい形で虐待されているとかではないのですが、言葉で『いらない』と言われていて、本当に孤独なんだと思います。私の書く主人公は、家族とうまくいっているけれど、孤独であることが多くて、そこは一貫したテーマとしてあるかもしれないです」。後半には、大人になった奈月が登場。「若い女は恋愛をしてセックスをするべきで、恋ができない人間は、恋に近い行為をやらされるシステムになっている」、そんな世界からすり抜けるべく、出会い系サイトを通じて価値観をともにする夫を見つけたところから物語が一気に展開していく。

 自らを「ポハピピンポボピア星人」と称する奈月たちは、人間を作り出す「工場」のような世間に息苦しさを感じて、徐々に行動をエスカレートさせていく。キャッチーなタイトルは、そんな奈月たちの目から見た“地球人”の呼び方を指している。「ほぼほぼ作品が出来上がってから、タイトルを決めてくださいと言われて、ポハピピンポボピア星人から見た地球人の話だなと思って、地球人ではなくて『地球星人』と言うとすごくしっくりときて…。なんか自分のことを地球星人って思ったことはないなというのもあったのですが、宇宙人の立場になったら、私たちは地球星人だよなって思ってつけたタイトルです」。

■執筆の“リズム”作ったコンビニバイト卒業 芥川賞から2年もブレない思い

 実際にはありえないような怒とうの展開を見せながらも、登場人物たちが抱える内面のリアルさが物語に没頭させる。結果、私たちが持ち合わせている“常識”を揺さぶるような作品に仕上がっているが、村田氏はどうやって物語を作り出していくのだろうか。「最初に似顔絵を描いて、人物を作って、あとは化学変化が起きるようにどんどん変えていく感じです。舞台を変えてみるとか、何かが起こるようにしていくと、自然と物語が起きていきますね。登場人物の設定や性格も更新されていくので、似顔絵を描き直しながらイメージをふくらませます。小学生の頃から、そういうのを決めるのが好きだったんです。『この子はこういう服を着ていて、丸字で』といった設定を考えていましたね」。

 その後は、登場人物の感情に身を任せる。「主人公自らが動いてくれて、そのままラストまでいくのが理想です。こういうラストが見たいなというように、都合のいい駒として登場人物を動かさないように心がけています。登場人物自体が意志を持って、摩擦を起こしたり、自分では思いがけないようなところにいったりしてくれないと、書いている人間を越えることができない。私自身は賢いほうではないので、私自身にも想像できないように化学変化してくれないと、面白くならないんです。今回も前半を書き終えた時に予想する後半の展開というのがあって、それは割とオーソドックスな物語だったと思うのですが、それとはまったく違った物語になりました。自分自身のことも揺さぶりたいと思って書いているのですが、今回の小説でも揺さぶられたと思います。自分が知らない世界に連れていかれるので楽しかったです」。

 『コンビニ人間』で芥川賞を受賞してから早2年。受賞直後は、目まぐるしい日々が続いていた。「すごく忙しくて、健康でいることで精いっぱいだったことは覚えているんです。小説をめちゃくちゃ書いていたらわかるのですが、そんなこともなく、あとに何も残っていないので、何がそんなに忙しかったのか、よくわからない。ひとつの小説を書き終えたら、すぐに次の小説を書くようにしているのですが、あの時は書く暇がなくて…。原稿を持ち歩いていましたが、取材が終わっても結局家に帰ってすぐ寝ていました」。執筆業の傍ら、週に3回コンビニでアルバイトを行う“異色の小説家”として注目を集めていたが、受賞から半年で一旦バイトに戻ることができたという。

 「その時は(バイト前の)午前2時に執筆するリズムに戻ったのですが、体はボロボロでした。毎朝吐いていたので体調はあまり良くなかったと思うのですが、書くリズムは取り戻せて、そこからスッキリして書き始めたのが『地球星人』でした。結局両立が難しくて、今はコンビニのバイトはやめてしまったので、今回は新潮社さんに通いながら執筆を進めました。ラスト近辺になると、毎日通わせていただいて、何か自分から押しかけ缶詰みたいな感じで書いていました(笑)。今はほかの出版社さんに通わせてもらったり、執筆部屋を借りてみたり試行錯誤しながら、バイトなしでも書けるペースが少しずつ作れているような気がします」。

 芥川賞から2年経って、執筆スタイル以外の変化を聞いてみると柔和な笑みをこちらに向けた。「あんまり変化はないかもしれないです。デビューからずっと変わらないというのが、自分のいいところだと思っていて。デビューをしてから、三島由紀夫賞をもらったりずっといいことや恵まれたことがあったけれど、そのたびに『変わらずに書いていこう』と思っていました。芥川賞をいただいた時も『変わらないで書いていこう』というのは決めていたので、たぶん今もあまり変わっていないと思います。変わってない…ですよね?」。独特な感性が同業者の間でも評判を呼び、仲の良い小説家の朝井リョウ氏、加藤千恵氏、西加奈子氏、オードリーの若林正恭などから「クレイジー沙耶香」との愛称で親しまれている村田氏。そんな村田氏の真骨頂が今作に詰まっている。

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